不動産屋の前でガラス窓に貼り付けられていた物件情報を眺めていたらガラスの向こう側におばあちゃんが立っていて、こちらを観察しながらこう言った。
「そんな寒いところで物件情報を見てても何も決められないでしょう?こっちへ入りなさい。」
僕は言われるがままに一軒の小さな不動産屋に入っていった。
棚には少し黄ばんだ物件情報らしきファイルがずらりと並んでいる。
どこかしら懐かしいにおいがするなと思ったら、おばあちゃんの屁のにおいだった。
早速「物件情報を見せてください」というと「若い人はせっかちですね。物件情報は後でたんまり見せますから、まあ、お茶でも飲んでゆっくりしなさい。」
出されたのは、コーヒーだった。芳ばしい香りが漂う。
おばあちゃんがコーヒーを好きらしくて自分で豆の挽き方から研究したそうだ。
早く物件情報が見たいと思っていた焦りは、吹っ飛んでしまった。
「お砂糖は3ついれますか?」
そんなに入れるわけが無い。「いえ、結構です。ブラック派なので。」
「なんだ、物件情報のお兄さんは板橋区流じゃないのか。」意味が分からなかったが、寂しそうだった。
何気ない冬の休日。どこかしらホッとする時間を過ごすことが出来た。
この不動産屋の名前は、「キミコ不動産」。。。